【裁判員制度施行1年】
「性犯罪は被害届を出すこと自体を躊躇(ちゅうちよ)する人も多いのに、裁判員裁判になる可能性があるとなれば、さらに被害者が声を上げられなくなってしまうのではないか」
著書『性犯罪被害にあうということ』で、被害体験を実名で公表した小林美佳さん(34)が懸念するのは、裁判員の存在に被害者が萎縮(いしゅく)してしまうことだ。
小林さんの元には、月に約100件のペースで新しい被害相談が寄せられるが、被害が公表されることへの不安の声は多い。小林さんがこれまでにかかわった被害者約2500人のうち、被害届を出したのは20人、起訴に至ったのはわずか5人だ。
小林さんが被害に遭ったのは24歳の時だった。帰宅途中に道を尋ねてきた2人組の男に襲われた。10年たった今でも時折、精神的に不安定になるという。
裁判員裁判では、被害者特定につながる情報を法廷で読み上げないなどの配慮がなされている。しかし、「誰かが自分の事件を話題にしているだけで、被害者にとっては大きな恐怖」と小林さんは訴える。
実際に、被害者が裁判員の存在に心理的負担を訴えたケースもある。
大分県警は先月6日、暴行を受け、けがを負った被害者から「裁判員制度になるのを避けたい」という申し出を受けて、容疑者の男を裁判員裁判対象外の強姦(ごうかん)容疑で逮捕した。だが、大分地検が強姦致傷罪で起訴、裁判員裁判となる異例の経過をたどった。
これについて大分地検は「法と証拠に基づき適正に処分した」と説明。ただ、被害者が納得しているかどうかは「コメントできない」とした。犯行に見合った罪名と、被害者保護の間で、厳しい選択を迫られている実態が浮かんだ。
また、昨年7〜8月に横浜市内で起きた強盗強姦事件では、被害者が被告から「裁判員制度になったから、おれが捕まったら、みんなが(被害者の)顔を見るぞ」と脅されていた。
裁判員経験者の意見も分かれる。先月23日に千葉地裁で開かれた強姦致傷事件では、被害女性の意見陳述を聴いた男性裁判員が「直接話を聞いて事件のことがよく分かりました」と述べた。一方、今月14日に宮崎地裁で行われた強制わいせつ致傷事件では、女性裁判員から「性犯罪は通常の裁判で行ってほしい」との意見が出された。
小林さんは、裁判員裁判は裁判官裁判に比べて性犯罪が厳罰化傾向にあることから、「裁判員に厳しく裁いてほしいという被害者もおり、裁判員裁判の対象から外すべきだとまでは言えない」とも話す。その上で、「裁判員は事前に研修を受け、性犯罪への理解を深めてから評議に挑んでほしい」と訴える。
NGO「アジア女性資料センター」(東京都渋谷区)の丹羽雅代運営委員長は「プライバシーの保護については法曹関係者もかなり努力をしている」と評価する一方、「今後は被害者による選択制の導入も含めて検討してほしい」と提案。また、お茶の水女子大の戒能(かいのう)民江教授(法女性学)は「被害者のプライバシー保護や裁判員の男女比の問題についてはもっと議論が必要だ」としている。(滝口亜希)
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